胃を全摘出し食事ができなかった時期も医師の言葉を信じて治療と向き合う

吉川佑人さん

吉川 佑人さん(28歳)東京都在住
発症・告知23歳/胃がん

取材日(2016年10月31日)※年齢・地域は取材当時のものです。

「今はがんも治る時代」という言葉で冷静に

吉川佑人さん

体の異変に気づいたのは、大学を卒業して社会人になった春です。食事が喉に詰まる感じと胃の痛みがあり、少しずつ症状がひどくなっている気がして、夏に近所のクリニックを受診しました。するとすぐ大きな病院に行くように言われ、紹介先の病院で検査をして、その日のうちに胃がんの告知を受けました。

告知はもちろんショックでした。その場で取り乱すことはありませんでしたが、後から「がんなのか」とじわじわ来た感じで、「死」という言葉が頭に浮かんで落ち込みました。告知を受けてから食欲もなくなり、一時は心も体もかなり弱っていました。でも、告知の時に担当の先生から「今は昔と違ってがんも治る時代だから」と言われたことがすごく心に残って、その言葉のおかげで自分でヘンに治らないと思い込むより、多くのがんを診てきた「圧倒的な専門家」の言葉を信じようと気持ちを立て直すことができたのかなと思います。

手術のダメージが大きくつらい日々

吉川佑人さん

告知の1カ月後に手術を受けました。術後は傷の痛みや吐き気がつらく、それがおさまった後は食事が苦痛でした。最初はほとんど食べられず、少し食べられるようになっても、うまく飲み込めず喉に詰まったり、本当にゆっくりでないと食べられなかったり・・・。

食事がうまくできなくなったことで、人間関係も大きく変わったと思います。「ごはん行こう」以外に友人の誘い方がわからなくて、友達づきあいも激減しましたし、パパッと早く食べることができないので、とにかく人と食事をすることが苦痛でした。

仕事は休職していましたが、術後の体調不良や腸閉塞を起こしたことなどもあって、術後半年で退職しました。その後、しばらくして書店でアルバイトを始めましたが、書店を選んだのも、そこで働く人は仲間を誘って食事に行くよりも、仕事が終わったらすぐ帰るようなイメージがあったからです。そうやって、なんとか食事の機会を避けようと過ごしていました。

誰かに相談することがプラスになると実感

吉川佑人さん

書店でアルバイトを始めて2年が過ぎたころから、正社員として働きたいという気持ちが強くなり、転職活動を始めました。でも、がんになったことがマイナスになるような気がして、がんのことを隠して採用試験を受けたこともありました。頑張ってもなかなかうまくいかない時期もあって、つらかったですね。

その後、今の会社に入社して、正社員として働いています。苦痛だった食事も、ゆっくりではありますが楽しむ余裕も出てきました。

ただ、ここまで回復するまでのつらさや転職活動での悩みを誰かに打ち明けることはなかったですね。胃がんは高齢の患者さんが多く、悩みを共有できるような患者さんが周りにいなかったせいかもしれません。でも、ここ1~2年で患者会に参加するようになって、同世代で自分と同じような経験をした人に相談するようになりました。自分にピッタリの答えが見つかるとは限りませんが、新たな発見や参考になる話を聞けることも多く、誰かに相談することは自分にとってプラスになるんだと実感しています。

「がん=何もできない」と決めつけるのは早い

吉川佑人さん

病気になる前、僕は夢のない若者だったと思います。学生時代はいつも同じ仲間としかつきあわず、旅行などもほとんどしなかった。でも、がんになって、もしかして死ぬかもしれないと思った時、それまでの人生を後悔したんです。社会的にも、せっかく入社した会社を長く休み、傷病手当金をもらいながら結局やめてしまって、自分は何も社会の役に立っていないという悔しさがありました。そういうマイナスの気持ちがパワーになり、元気になって社会貢献したい、また正社員として働きたい、海外旅行もたくさんしたい、多くの人に出会いたいなど、今後の人生の目標につながった気がします。

これは僕の場合ですが、例えば食べられなかったものが食べられるようになるなど、できないと思っていたことができるようになることも、案外多いと思います。患者会で他の参加者から「もうできないと思っていたことができた」という体験談を聞くこともよくあります。もちろん無理はいけないけれど、最初から「がんだからできない」と将来の選択肢を狭くしてしまうのはもったいない気がします。

「もうダメだ」と家に閉じこもりたくなってしまう気持ち、僕はすごくわかります。でも、医療は日々進歩しています。先生を信じて、自分を信じて、あきらめずに未来を切り開いていけたらと思います。

  • 監修:国立がん研究センター中央病院 清水 研 先生