本当に大変なのは日常生活に戻ってから
がん患者さんをサポートする仕事がしたい

山谷佳子さん

山谷 佳子さん(34歳)東京都在住
発症・告知 29歳/顎下腺の腺様嚢胞がん

取材日(2016年10月31日)※年齢・地域は取材当時のものです。

「自分はがん」と実感したのは手術の後

私の病気は、腺様嚢胞がん(せんようのうほうがん)という、あごの下にできた、とてもまれながんでした。告知の時は、両親のほうがショックを受けたようで、母は泣いてしまいました。「泣きたいのはこっちだよ…」と思いつつ、母が泣いているのを見たら泣けなくなってしまい、そのせいか、がんの告知は全く現実味がありませんでした。今思うと、自分のこととして受け止められていなかったんだと思います。

ちょうどそのころ、私は臨床心理の勉強をするために、仕事をやめて大学院に入り直したばかりでした。頑張って勉強して合格し、高い入学金を支払って通い始めたばかりなのに、学校に通えなくなってしまうことがすごく悔しかった。どのぐらい学校を休むことになるのか、学校をやめなくてはならないのか、そればかり考えていました。

翌週には入院して手術することになり、入院準備や学校との調整など目の前の対応に追われながら、自分は意外に冷静だと思っていました。そんな私が、自分ががんであることを実感したのは、手術が終わった時でした。全く体が動かず、首元に大きな傷ができていて、痛くてだるくてたまらない。そうやって体に影響が出て初めて、「本当に私の中にがんがあったんだ。手術をしてそれを取ってこんなふうになってしまったんだ」と思ったのです。

通学時の出来事をきっかけに気持ちに変化が

がんを取ってしまえば治療が終わると思っていましたが、私のがんは悪性度が高く、再発予防のために放射線治療を受けました。入院が延びたことに加え、つらかったのは治療による見た目の変化でした。手術や放射線治療の影響で、耳の下からあごにかけて大きな傷跡が残ったり、輪郭が変わるほど顔が腫れたり、ゆがんだり、味覚が無くなってしまったり…。病院にいれば周りは病気の人たちで自分が“特別”な感じはしませんでしたが、退院後は“ふつう”の人の中に戻ることになる。そう思うと人に会うのが怖かったです。

でも、学校には早く戻りたくて、ストールを何重にも巻いたり、濡れても落ちないファンデーションを塗ってみたりしました。それでも隠しきれず、「傷を見られてるんじゃないか」と、人目がすごく気になりました。

さらに、治療のせいかすごく体力が落ちていて、学校に行って授業に出ても座っているだけで疲れ、帰宅すると倒れ込んで寝てしまうほど。それでも、休んでいた遅れを取り戻さなきゃと必死で、身体的にも、精神的にもつらい時期でした。

そんなある日、電車で目の前の席が空いたのでフラフラと座ったら、近くにいたおばさんに「あんた若いのに!」と文句を言われたのです。その時、「このおばさんから見たら、私はふつうの元気な若者に見えるのか」と思い、ふと、気づいたのです。今、目の前にいる人も、仕事でストレスを抱えてうつ病になりそうなほどつらいかもしれないし、家に帰れば介護で眠れないほど大変かもしれない。何もないように見えても、みんな何かを抱えて生きている、私だけではないんだ、と。そこから、少し気持ちが前向きに変わったような気がします。

治療と生活、頑張る自分を労わることも大切

私はもともと福祉の仕事をしていて、勉強して臨床心理士の資格を取得したら、また同じ仕事に戻るつもりでした。でも、がんになって将来の目標が変わりました。

治療は確かに大変ですが、決められた通りに進んでいくし、入院中は先生や看護師さんに支えてもらえる。本当に大変なのは退院後、日常生活に戻ってからということを実感したので、臨床心理士として、そういう人を支える仕事がしたいと考えています。

私は、可哀想と思われるのが嫌で、病気のことをほとんど誰にも話しませんでした。「言ってもわからない」という気持ちもあったし、「無理しないで」「頑張りすぎないで」と言われるのがすごく嫌だったんです。自分で無理していることを認めたくないほど無理していたというか、無理しないとやってこられなかったというのもあると思います。

でも、がんになって、治療をして、勉強や仕事もして、それだけでもう十分すぎるほど頑張っていて、無理もしている。だからこそ、今では自分を「よく頑張ってるね」と労わってあげることがとても大切だと思いますし、がん患者さんがそう思えるお手伝いができればと思います。また、AYA世代のがん患者さん同士がつながれる機会は少ないですし、私のように外へ出たくない人や、生活をするだけで精いっぱいの人が沢山いると思います。がんの体験や、その年代特有の悩みなど日々の生活の中で抱えるモヤモヤしたことを分かち合える患者さん同士の交流(ピアサポート)は、とても重要だと思うので、そういった取り組みが広がるお手伝いができればいいなと思っています。

  • 監修:国立がん研究センター中央病院 清水 研 先生