Q1感情の整理ができないときは?
A泣くことには悲しみを癒やす力があります。少しずつ気持ちを吐き出して、一緒に整理していきましょう。
がんの告知直後は、信じられないという気持ちで頭が真っ白になったり、絶望や恐怖、不安や怒りが押し寄せてきたりすることもあります。まずは、ご家族など、甘えられる相手に断片的でもいいので、今感じていることを少しずつ打ち明けてみてください。ご家族に話しにくい場合は、精神腫瘍科やがん相談支援センターなどを利用してください。相談にいらっしゃるときは考えが整理できていなくてもいいのです。「泣くこと」には傷ついた自分を癒やす力がありますし、理不尽だと思うことには我慢せずに「腹を立てる」ことも必要です。自分の感情を吐き出すことで、少しずつ混乱が収まっていき、問題と向き合い、状況を自分なりに理解していくことができるかもしれません。
一人で悩むと視野が狭くなってしまいがちです。答えは自分の中にしかないかもしれませんが、答えを導き出すために誰かの力を借りてもいいのではないでしょうか。私たち医療者は、一緒に気持ちを整理して、答えを見つける手助けをしたいと思っています。
- 答えた人
- がん研有明病院 腫瘍精神科 部長 清水 研 先生
体験者エピソード
体験談は、あくまでその方個人の感想・体験です。すべての人に当てはまるものではありません。年齢・地域は取材当時のものです。
毎回、治療の前に来る友人からのメールで泣いて気持ちを奮い立たせた
【菅原祐美さん(33歳)発症29歳/乳がん】
一緒に告知を聞いていた母がショックを受けている様子を見て、これから先、母の前では泣けないと感じました。それでも、職場からの帰り道など母や他人の目がないところで泣いたりすることはありました。
ひとりの友だちが抗がん剤治療のスケジュールを覚えていてくれて、治療の当日にいつもメールをくれました。「あなたは頑張っているから、頑張ってとは言わない。私は、あなたは大丈夫だって信じているからね」って。病院に行く前にこのメールが届くので、母に隠れてちょっと泣いて、涙を拭いて「よし、治療に行くぞ!」って。この友だちからいつも力をもらっていました。
感情があふれ出たのは告知翌日。主治医からの言葉で気持ちが楽になりました。
【保坂翔大さん(33歳)発症27歳/急性骨髄性白血病】
告知された当日はまったく実感がありませんでしたが翌日になって、自分の力では乗り越えられない壁にぶち当たってしまったという実感が湧いてきました。これまで、たいていのことは乗り越えてきて、けっこう強い人間だという自信があったのに、何もできない弱い人間だと感じて不覚にも大泣きしてしまったのです。そこにたまたま主治医が回診に来られました。とても気さくで明るい先生なのですが、そのときは一緒にいた研修医に席を外すように言ってくれて、二人きりで真剣に僕の話を聞いてくれました。そして、「今の状況で自分の弱さに向き合える人はいない。それだけでも、君は充分に強い。大丈夫だ」と言ってくれたのです。
その言葉を聞いて、この先生を信頼していけば大丈夫だ。そして先生が大丈夫だと言ってくれるんだから大丈夫だ。と、不思議なくらい楽になりました。
友人など身近な人よりも、第三者に話を聞いてもらうことで落ち着くことも
【永迫愛さん(33歳)発症31歳/子宮頸がん】
私はがんで、子どもが持てなくなることがすごくつらくて、あきらめきれない気持ちでした。ちょうど同世代の友人たちの結婚、妊娠、出産が重なる時期でもあって、当時は「なんで自分だけ」と悔しくて、うらやましくて、絶対に友人には相談したくありませんでした。
がん相談支援センターの相談員さんとか、入院中に知り合った同世代の患者さんには、第三者だからこそ話しやすかったです。また、大学病院とは別に通っていたクリニックの先生にも精神的なサポートをしてもらいました。「がんはあなたの一部なんだよ」「子どもが欲しいなら養子をもらうこともできる。自分の子でなくてもできることはあるから、元気になってから考えてごらん」というポジティブな言葉に、少しずつ前向きになれました。
- 監修:がん研有明病院 腫瘍精神科 部長 清水 研 先生