AYA座談会

価値観の変化と生きやすさ

(座談会開催日:2020年10月19日)

小磯さんの顔写真

小磯人間じゃないような生活をしていたのが、親友の結婚式で余興をお願いされたことがきっかけで少しずつ変わりました。久しぶりに会って私の様子がおかしいと気づいた友人たちが、半ば無理矢理、私を外に引っ張り出しました。この経験があって、「もう1回外に出てみようかな」とか、「ちゃんとした生活を送らないと」という気持ちがわいてきました。

チャットでもありましたが、私も「価値観が変わって逆に生きやすくなる」という経験をしました。今までの『NO』の人生―やらない、できない、病気だから選ばない―を、『YES』の人生に変えてみようと思ったんです。そうしたら、目の前が開けていったという不思議な経験です。「やってみよう」「一歩踏み出してみよう」と思うようになって、すごくすごく変わっていって今があるという感じです。

チャット

三井すごいです!!

岸田浮き沈みがパない。披露宴の余興なんでやねんって思ったら、ここにつながったんですね。

清水『NO』の人生が『YES』の人生になったというのは、どんな感じなんですか?

小磯これは勝手に自分で決めたマイルールです。患者会のメンバーにはパワフルで面白い方が多くて、講演会で知らない人の前で話すことを勧められました。自分の病気のことを泣きながら話すと、周囲の人がよかったと言ってくれるんです。人前で自分のことを話すなんてできない『NO』と思っていたのを『YES』にしたら、自分の不安が小さくなったり、周囲から褒められたりという達成感を味わうことができました。それがとても嬉しかったんですね。そのためにお洋服を買って、お化粧をして、色々な物を新しくした時に不思議と気分があがる、元気になったのを感じました。

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患者会の活動中の小磯さん(左)

清水ご自分でも元気になったと感じていらっしゃるのですね。

小磯元気になったと感じています。何かに挑戦し達成感を感じた時、もう少し何かやってみよう、そんな気持ちになりました。患者会の活動をしながら社会とのつながりを持ち、そのあと社会復帰をしました。統合失調症の発症後は、自立支援医療で就労移行支援事業所に通って、社会生活の訓練をしていました。今は、そこで支援する側として働いています。忙しいことはいいことだと思っています。


清水井上さんは、がんになってどのような変化がありましたか?

井上私は病気をする前は、むしろいつ死んでもいいと思っていました。投げやりな感じではないのですが、今死んでも後悔はないという感じからです。でも、いざこうして命に関わるような病気になってみると死にたくないって思っている自分に初めて気がつきました。どうやったら生きられるかを考えていました。がんになって自分が「生きる」ことに執着していたことに気がつきました。そこでまず、価値観がガラッと変わりました。

乳がんで抗がん剤治療をするにあたって妊よう性を喪失する可能性がかなり高いという話がありました。まず、妊よう性を温存するかしないかを選択しなければなりません。私の場合は、温存せずに抗がん剤治療を始めました。理由としては、結婚していなかったことと、進行が早い悪性度が高いがんのタイプだったことから妊よう性温存のためにがんの治療をストップする方が怖いことがありました。

いつかは普通に結婚して子どもを産む人生が送れると思ってずっと生きてきたので、急に、それも短期間で命と子どもをもつ可能性とどちらをとるか、という究極の選択を迫られていました。結局、自分の命を優先にして、妊よう性の温存はしないことを決めたのですが、それをずっと後悔ではないんですけど本当によかったのかな、みたいな思いもありました。

チャット

四家未来はわからない・・・短期間で選択は厳しい

小磯究極の選択ですよね。本当に…。選べない!!って思う

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抗がん剤治療で一番苦しかったころ、仕事のお昼休みにはウィッグを取って横になっていました。(井上さん)

井上結婚をして子どもを2人目、3人目と持ち始める年齢の女性たちと自分を比べて、彼女たちは病気でもないし結婚もして子どもも持てているのに、私はこんな死ぬかもしれない病気にかかって一生子どもを持てないかもしれない。それでも生きていく意味はあるのかと自問していました。加えて抗がん剤の副作用がキツかったので、治療を途中でやめて逃げ出したい、そのことが原因で死んでもいいから逃げ出したいと思いました。表現が正しいかどうかわかりませんが、死ぬほどの勇気も持っていなくて、結果的にどうにかその治療を全クール終えました。

ただ、抗がん剤治療が終わると副作用がおさまって体力が回復してくるんですよね。そうするとだんだん心が元気になって。体が元気になると本当に心も自然に元気になって、今度は「よし、いまから生きていこう」みたいに。そういう風に前向きになって今に至ります。

チャット

三井体と心って、つながっていますよね

鈴木「普通」ってとても幸せですよね この感覚はこういう経験をしないとわからないと思います

岸田わかります。つながってると思います。体調悪くなったら、なんで自分が・・・とか思うこと多かったです。

井上治療があまりにも辛くて「死にたい」とか「死んでもいい」とかって思っていた時は性格もすごくネガティブで、もう悪い方に悪い方に考えていたので毎日しんどくて、心配事ばかり抱えている状態でした。それが、治療が終わってみると、不思議と毎日が楽しくて。髪の毛が生えているとか、ちゃんと味覚障害もなくご飯の味がして食べられるとか、そういう日常の小さなことが全部幸せに思えてきて。そうすると、人生ってすごい楽しいなって、生きていてよかったな、と思えるようになりました。

清水体調は気持ちの在り方を大きく変えますよね。

笑顔の井上さん

井上病気になったことによって性格が180度変わって、ものすごく生きやすくなりましたね。それまで悩んでいたことは多分究極のところの悩みじゃなかったんだろうなって今は思います。やっぱりその「死」というものを本当の意味で意識してからは、正直それ以上のことはないわけで、何かあってもくよくよ悩むのをやめようと、性格が本当に変わりました。

清水毎日楽しくても「いつ死んでもいい」とはなかなか考えないと思いますが、それはどんな感じだったのでしょう。

井上どうなんでしょうね。今、思い返すと自分の何がそう思わせたのか思い出せないのですが、生きることに執着がなかったのかもしれませんね。
でも、今考えると、その時も本当は「生きたい」と思っていたのかもしれません。「死ぬ」ということをきちんとわかっていないから「死んでもいいや」と思っていたのでしょうかね。私はもともと性格がネガティブなので、周りの人から「楽しく生きた方がいい」みたいなことを言われると、「それはわかってる」とか「私もそうしたいけどできないの!」みたいになるところがあったんですよね。頭ではわかっているんですが、人に言われても実際にはどうにもできなくて。
それが自分の実感として「生きてるって楽しい」と思えたんです。自分でも、性格が変わりすぎて、自分のことがよくわからないんですよ。

清水精神医学では性格は変わらないと言われていますが、がんを経験した方のお話を聞くとやはり性格は変わるよね、と思います。

井上そうですね。たぶん、変わったのは性格ではなくて、価値観だと思います。

チャット

鈴木私も性格変わったと思うなぁ・・・

四家性格・価値観はかわる!

  • 監修:がん研有明病院 腫瘍精神科 部長 清水 研 先生

2024年2月更新