AYA座談会
生きる意味、生きる喜び
(座談会開催日:2020年10月19日)
清水私はがんの仕事をする前は人生ってむなしくてどうでもいいや、という気持ちがありました。井上さんも、どこかむなしい感じがあったのでしょうかね。
井上そうかもしれないですね。周りは結婚して子どもが生まれて…と色々とライフステージが変わっていくのに、私は特に何も変わらない。別に私が今ここで死んでも、子どもがいるわけじゃないから誰も困らないし、自分は必要ないんじゃないか、そのようにうっすら思っていました。
でも、子どもを産むことで自分の生きた証が残る人がいる一方で、私みたいに子どもを産むことはできないとしても、何か別の形で残すことができればそれでいいのではないかと思うようになりました。それを見つけるために私は今から生きていけばいいのではないかという考えに至りました。子どもが産めない自分は価値がない、みたいなところから一転したような感じはありますね。どうやったら私が生きた証が残る、生きた意味があるのかなと考えるようになりました。
清水子どもを残すことは社会的には意味があると言われていますが、井上さんは子どもではなく、別の形で残せればいいと。私は、子どもが産めなくても意味があると考えます。何も生み出さなくてもいいのではないか、と思います。
脱ウィッグ後に初めて患者会のスタッフとしてイベントに参加した井上さん。
井上私が、何かをやってのけて残すという意味ではなくて、私が存在することによって、例えば、今、私は若年性乳がんの患者さんをサポートする団体で運営に携わっているのですが、治療中で当時の私のように本当に苦しんでいる患者さんとお話をしていると、「私もそうだったよ」という一言で、その方のお顔がぱぁっと変わったりするんですよね。そういうのを目の当たりにすると、「あっ今日私がここまで生きてきた意味があったな」と思います。素晴らしいことをやらなくても、ただこうして生きているというだけでも、誰かの「そういえば何かあの時、誰かと喋ったな」と記憶に残ればいいのかなと考えが変わりましたね。
清水なぜか、今はとてもポジティブなんですね。
井上そうなんですよ。なんか楽しいんですよ。特に何もしてないんですけど楽しい(笑)
チャット
小磯普通の幸せを感じること、忘れないようにしたいです。他者と自分を比較しはじめたら、すごく辛くなりました。
四家比較はしない・・・かたちあるもの
小磯私は保護猫ちゃんの里親になりました。色々な形で社会貢献できると感じています。
鈴木生きていれば辛いこともありますけど、楽しいことや幸せなことは必ずあって、それを感じられるのは生きているからだなぁと思う時はあります
清水四家さん、がんになってからどのようにお感じになりましたか?
四家婦人科系の病気になってから時が止まったような、停滞してしまったようなことを感じていました。結婚もしてないし、子どももいないし、仕事するにはスキルもないし、転職ばかりしていました。だから、がんになった時は、ほっとしたんです。がんになったらここまで生きると思っていなかったので、どうしようと思っているところです。
今、仕事で、私が発病したのと同じ年齢の上司によく怒られているのですが、その上司は厳しいけれど過去のことを決して持ち出さないとても良い方なのです。その上司の下で勤続年数が2年になり、記録更新中です。今は、生き直し、やり直し、リスタートそんな感じです。
清水がんになってほっとされたというのは、もう終わりになっちゃった方が楽だな、そんな感じですか?
四家ずっと体調不良もありましたし、「がん = 死」という図式を疑っていなかったので、「ああ、このまま終わるんだなぁ」って思いました。「死の受容」についての本を母に買ってきてもらっていたぐらい。これから死ななきゃいけないんだなって不思議と慌てはしませんでした。
清水体調不良の原因がわかってほっとしたというのもありましたか?
四家体調不良の原因がわかって、ほっとしたのもありました。ただ、この先の人生のことを考える間もなく、治療がどんどん進んでしまったので、それはそれで後からじんわり辛いなって思う日々がありました。治療した後もずっと何年も何年も辛かったです。
清水「がん=死」が怖いとは思わなかったのですか?苦しい中で「死」をどんなふうに落とし込んだのですか?
四家さんの仕事の相棒の自転車。
四家なぜか不思議と死ぬことを怖いとは思わなかったですね。別にもういいか、みたいなそんな感じでした。「死」は、落とし込まなければいけないと思っていました。いまだに落とし込むことはできていませんが。何年か経ってから同病の仲間が亡くなるのを聞くと、どんな思いで亡くなっていったのかなって思うこともあります。また訪問介護ヘルパーの仕事では、人生の最終段階にいる方のケアはどうしたらよかったのか、と後悔しないように1日1日を過ごしていきたいと思っています。
清水そういう状況にいる人の気持ちをよく考えられるようになってきたんですね。上司の方との出会いは大きかったのでしょうか?
四家私が妬みやひがみみたいな気持ちを持ってしまうこともあるのですが、過去のことを根掘り葉掘り聞いたり、私の過去を否定したりする人ではないのですよ。それが少しずつ自信になっていったと思います。厳しいけれど励ましてくれて、口数は多くありませんが、ちゃんと見ていてくれるので、安心したっていうのもあります。
チャット
小磯見ていてくれる人、大切ですよね。誰かの為に役に立てた時、生きていて良かったと思えたことがありました。
三井時間は巻き戻らないので、起こってしまったことは受け入れる方が得ですよね。ラッキーと思うとハッピーですね
鈴木個人的に自分の過去よりも、今の自分を見てくれたほうが嬉しいですよね
岸田ほんとそうですよね。過去より今。
清水介護のお仕事が喜びになっていますか?
四家喜びになっています。
清水それは介護を受ける方の気持ちを感じられるからですか?
四家介護を受ける方の気持ちも感じますし、介護を受ける側の家族の気持ちも感じます。一方、少し悩みがあるのは、専門職としてどう生きたらいいのかっていう、専門職や支援者としての目線も大事にしたいなって思っています。
清水今はどんなことを大事にしようと思っていますか?
四家今は適切な距離感を心がけています。100人いれば100通りの人生があるので、人の人生に入り込みすぎないということと、例えば最期に立ち会わせていただいたら、本当にありがとうございますって感謝の気持ちでいっぱいです。
清水今の四家さんにはやさしさがあふれていると感じました。
四家ありがとうございます。
岸田チャットもあたたかくて、いろいろな名言がたくさん飛び出しています。みんなのコメントがあたたかくて、すごく心に沁みすぎてやばいです。チャットによると小磯さんの猫ちゃんは保護猫なんですね。
小磯そうなんです。元野良猫ちゃんだったんですけど、私の知人のところで保護されていて一目惚れして、うちに来ました。殺処分の話を聞いた時に、自分も命に向き合った一人として、命の期限があるこの猫ちゃんの力に少しでもなれたらいいなぁと思いました。癒しもたくさんくれますよ。
小磯さんと猫ちゃん
不思議な猫ちゃんで、私の元気がない時はソワソワしたり、私が元気だとそっぽ向いていたりします。今日は少し私の雰囲気が違うのを悟ったのか、落ち着かずによく鳴いていました。自分の生活の中で育てていける限り、そういう活動もしたいなと思っています。
- 監修:がん研有明病院 腫瘍精神科 部長 清水 研 先生
2024年2月更新